【1】支援費制度: 障害者のヘルパー利用時間に上限 厚労省が一転 
2003.01.10

 行政が決めていた障害者福祉サービスを4月から障害者自身が選べるように改める「支援費制度」について、厚生労働省が身体・知的障害者が受けるホームヘルプサービスの時間数などに「上限」を設ける検討を始めていることが分かった。厚労省はこれまで、「障害者に必要なサービスを提供する」との考えに基づき、時間数に上限を設けないよう地方自治体に指導してきた。制度導入目前の大きな方針転換に、障害者団体は強く反発している。  関係者によると、身体障害者が受けるホームヘルプサービスは月120〜150時間程度、知的障害者が受けるホームヘルプサービスは重度が月50時間、中・軽度が月30時間程度の上限を設定するなどの案が浮上している。これが実現すると、全面介助が必要な身障者でも、原則1日4〜5時間程度しかサービスを受けられなくなる。  現在行われている障害者福祉サービスは、市町村が利用者を特定し、サービス内容を決める「措置制度」。厚労省は旧厚生省時代から全国の都道府県の担当者会議などで、サービスの時間数については上限を定めないよう、指導を続けてきた。  昨年末に発表された新障害者基本計画は、入所施設偏重から地域生活への転換が明示されており、支援費制度も障害者の地域生活を重点目標として導入される。特に、ホームヘルパーは地域生活を支える根幹の制度で、同省は最近まで一貫して「上限は設けない」と説明してきた。  厚労省障害保健福祉部は「支援費制度の開始でサービスの需要が増えることが予想され、無制限に支援費を出して予算をパンクさせるわけにもいかない。目安としての上限を設けることを検討しているが、具体的なものはまだ白紙段階だ。28日に開催予定の全国担当者会議までに、結論を出したい」と説明している。 【須山勉】


◆ことば◆支援費制度

 身体・知的障害者の自立と社会参加を促すため、都道府県が指定する事業者から障害者自身が必要な福祉サービスを選んで契約し、国や地方自治体が必要な額を「支援費」として支給する新しい制度。4月からの導入に向け、支給申請の受け付けが市区町村で始まっている。厚生労働省の調べでは、利用見込み者数はホームヘルプサービスなどの居宅支援が約20万8000人、施設支援が約21万3000人。


◇地域で暮らせぬ
 北野誠一・桃山学院大教授(障害者福祉論)の話 重度の身体障害者の中にはホームヘルパーの援助で地域生活をしている人が大勢いる。これから地域生活が本格化しようとしている知的障害者にとってもヘルパーは何よりも重要な制度だ。それに上限を設けたら、障害者は地域で暮らせなくなる。何のための支援費制度なのかもう一度ゼロから考え直さなければならない。これまで上限を設けずにやってきた障害者福祉の歴史を踏みにじる行為で容認できない。


◇怒りを禁じ得ぬ
 知的障害者の家族らで作る「全日本手をつなぐ育成会」の松友了常務理事の話 知的障害者に必要なのはモノではなく人の支え。ホームヘルパーこそ、地域生活をする上で最も重要な制度の一つだ。身体障害者に比べ、知的障害者へのヘルパー制度は2年ほど前に始まったばかりで、県や市町村が消極的なこともあり、十分普及しているとは言えない。支援費制度の導入に伴い、これから充実させていこうという矢先のことで怒りを禁じ得ない。


◇福祉の破たんに近い
 重度障害者の地域生活支援施設「青葉園」(兵庫県西宮市)元所長の清水明彦さんの話 これまで国は、福祉サービスの供給量に上限を設けるなと指導してきたのに、今になって何を言うのかと思う。障害者一人一人の生き方に応じたサービスを誠実に考えてきた自治体、事業者をばかにしている。財政が厳しい状況は分かるが、もし上限設定を実施すれば、地域で生きていけなくなる障害者も実態として出てくる。そうなれば、日本の福祉の後退というより、破たんに近い。

◇自立の流れに逆行
 NPO法人「自立生活企画」(西東京市)の益留俊樹代表の話 障害者の社会参加、自立という流れに、まったく逆行する動きだ。支援費制度が導入されても、現在サービスを決定している区市町村の予算は、大きくは増えないと思う。そうした中、国が上限を設定すると、自治体側がこれを盾に取って、サービスの時間を減らしてくるだろう。14日に厚労省で抗議行動をすべく、全国の障害者団体に呼びかけている。

[毎日新聞1月10日] ( 2003-01-10-03:01 )


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